序章



9月3日

今日で、第3次大戦が終結してちょうど5年になる。
とは言っても、
私は大戦の間も変わらず、国内にはびこる悪や異形の排除ばかりしていたし、
望美も、良くわからない実験と、端末との睨めっこの繰り返しだった。
別に戦争中であっても、そうでなくても、二人とも日常生活の内容が変わることは無かった。

ただ、父さんと母さんが戦争の惨禍に巻き込まれて死んだッて聞いたときは、
二人とも忙しくて、葬儀にすら出られなかった事を深く嘆いた事は今でも忘れられない。
・・・そういえば最近、父さんと母さんの墓に行っていない。
仕事に一区切り付いたら、望美と一緒に久々に墓参りに行くとしよう。

しかし現在の日本は、戦争が起こるまでの日本と比べてかなり変わってしまった。
大戦の戦渦に大きく晒されてしまったにも拘らず、国の経済力は絶望的で、
荒れ果てた被災地は満足な支給も享受することが出来ず、そのまま廃墟と化し、スラムと成って行っている。

一握りの資産家や企業だけが生活の安定を取り戻し、
何の権力も私財も持たない民衆はスラムを彷徨い、飢えに苦しみ、落ちぶれ、そして犯罪者や異形の餌食となる。
任務をこなす傍ら、私はそんな浅ましい光景を何度と無く見て来た。
かつての平和な日本からすれば、とても想像できない現状だろう。
・・・・・・私と望美も、今の仕事に就いていなければ、彼らと同じようになっていたのだろうか。

明日もまた、次の任務が入っている。
医薬企業の大手『フェリウス』が、異形を実験体に捕縛して弄繰り回し、あまつさえ軍事力として海外に密輸しているそうだ。

別に異形をどうこうしようと、私としては構わないが、
こんな行為を犯す企業の存在が、国の治安を脅かす一因となるのは目に見えた事実だ。
この企業の製品は私もよく使っていたが、任務だ。仕方ないだろう。

では、任務に備えて、今夜はもう寝るとしよう。


                           ―――――国家治安維持兼異形処理部隊所属  法条 希梨華の手記より――――